「アスペルガー症候群に特化した就労支援マニュアルESPIDD

 

書評

「アスペルガー症候群に特化した就労支援マニュアルESPIDD」梅永 雄二/ 井口 修一 著

その1

 

長年発達障害の人の就労支援の仕事をされている、梅永雄二先生の著作の書評です。

今回は第1部についてまとめました。

 

ESPIDDとは

ESPIDDとは、アスペルガー症候群の方でも、特に現在進行系で就職活動されている方向けのアセスメントとそこからの就労支援プログラムです。(ESPIDDの説明はその2、あるいはその3でする予定です)

 

アスペルガー症候群の就労の現状

第1部では自閉症スペクトラム(の特にアスペルガー症候群)の方の就労の現状について説明しています。

まずは、伝統的な職業リハビリテーションのやり方では発達障碍者に対して効果的な就労支援ができていない現状が説明されています。

現在の職業アセスメントではASD(自閉症スペクトラム障害)の人のニーズや能力を的確に把握できないのです。GATB等で高い数値が出たからって、その仕事がそのASD当事者にとって「合う」仕事とは限りません(というかそうでないことのほうが多い)。ASDの人に対してのアセスメントがないという現状があります。(これが後半のESPIDDの話に繋がります)

 

ハードスキルよりソフトスキルが問題

ASD(自閉症スペクトラム障害)の方の就労にとって一番の問題は、その仕事をするのに必要な知識や技術(ハードスキル)ではなく、人間関係や非言語的な約束事に対する理解・コニュニケーションの問題(ソフトスキル)であることがほとんどです。ところが伝統的な就労支援ではこの問題に対して効果的に対応できないのです。

多くのASD当事者はこのソフトスキルの問題でつまずき、多くの人がニート・引きこもりになってしまいます。日本でのニート・引きこもりの多くがこの問題で躓いた人々で、特に同時代に理解がないまま過ごした現在の30代-40代の人はニート・引きこもりになっている人がこの世代だけでも数十万人います。自閉症対策の先進国と言われているアメリカでも実は同様で、ASDの人の50-75%が失業中であると言われています。

就労支援でのニーズは圧倒的にASD

さらに、教育現場で上がってくるニーズと就労支援の現場で上がってくるニーズのギャップというのもあります。教育現場(特に小学校)では、現場で報告される困りごととしては、ASDの人よりもLDの人の方が顕著に報告されるのですが、大学や障害者職業センターなどに現場から上がってくる困りごとは圧倒的にASDの人からになります。(LDの人はなんだかんだ言って就職できる人が多いです)

 

第1部では、発達障碍者に特化した就労支援のサービスについて列挙しているページもあるので、実物で確認してください。

 

感想 

今回は全体の前半1/3(第1部)だけの感想ですが、ASDの人の就労困難の実態と抱えている問題に関しては、ほとんど私にとっては知っていることでした。それは別として、一番第1部で感銘を受けたのは、

・ASDの人には、就労支援に関して、職業カウンセラーやジョブコーチとは別に、ASD当事者の生活全般を支援する生活支援者が必要だという考えでした。ASDの人を「一種の」生活障害者と規定し、その人たちの日常生活をささえるライフスキルサポーター(仮名)が必要だという考え方ですASDの人は自己管理の面でつまずくことが多いからです。(以前の梅永 先生の講演会だと、シャンプーの付け方を知らなかったT大生や給油しないと車がガス欠になるのを知らなかった人の話がありました)