「アスペルガー症候群に特化した就労支援マニュアルESPIDD」
書評
「アスペルガー症候群に特化した就労支援マニュアルESPIDD」梅永 雄二/ 井口 修一 著
その2
前回に続き、今回も「アスペルガー症候群に特化した就労支援マニュアル ESPIDD」の書評をしていきます。
この本の2部では、発達障害者に特化した具体的就労支援について書かれています。
具体例として、東京障害者職業センターの支援サービスが書かれています。
就労支援サービスは多岐にわたる
東京障害者職業センターが提供しているサービスは多岐にわたります。
- 職業相談(職業指導)
- 職業評価(アセスメント)
- 職業準備支援(短期)、就労移行支援(長期)
- 職業訓練
- 職業紹介
- ジョブコーチによる職場適応支援
- 職場定着支援、事業主支援
などがあります。
職業相談
発達障害の人の中でも特にアスペルガー系の人は、客観的に状況を認知することが苦手な人が多くて、コミュニケーションに問題を抱えている人が多いです。そのため、単なるヒアリングでは必要な情報を得られないことがあります。(ロジャース型のカウンセリングではあまり成果が出ないです。)そのため、本書では「職業相談シート」の作成を強く薦めています。質問についてですが、漠然とした質問ではなく選択式などにしたほうがいいでしょう。
職業評価(アセスメント)
アスペルガー系の人の多くは
・シングルフォーカス
・シングルレイヤー思考
・ハイコントラスト(白か黒かという思考)
・自動思考
・客観的な視点のなさ
・全体を見ない思考
をする傾向を持っている人が多いです。そのため、これらの思考パターンを持っていることを当事者にフィードバックする必要があります。
場合によっては、フィードバックの後、技能トレーニングを行う必要があります。
そのためにはアセスメントの重要性が何度も強調されています。
なぜなら、発達障碍の人は
・能力のアンバランス
・能力の発揮が環境によって大きく変わる
ということが多いからです。そのため、GATBなどの能力評価だけでは適性がわからないことが多いです。
ハードスキル(職務遂行能力)の評価だけでなく、ソフトスキル(対人関係など職業生活遂行能力)のアセスメントが必要になります。
本書では「職場実習アセスメントシート」の作成について説明してあります。これはTTAP(知的問題を抱えているASDの人向けの就労支援プログラム)の成果をを知的に問題ないASDの人向けに適応したものです。
このアセスメントシートで評価したあと、職業リハビリテーション計画を作成していくことが必要になります。
職業準備支援
働くためには職業準備性が必要になります。具体的には、
・職場適応行動
・職業適応行動
・対人行動
です。必要ならば、発達障害者用の技能トレーニングをして上記の行動ができるようになる必要があります。
就職活動支援
視点1 アスペルガー症候群者のもっている知識・技術と特性の強みを活かす。
視点2 アスペルガー症候群者の苦手なこと(弱み)の要素や負担を軽減する
の2つの視点が必要になります。
その際にナビゲーションブックなどを作成すると助けになるでしょう。
ナビゲーションブックとはASD当事者自身が求人者に伝えたいことをまとめて記載したものです。
*実は似たような試みは以前紹介したNHKの番組でもありました。「私のトリセツ」というものを作成するというものです。
ジョブコーチによる職場適応支援
ジョブコーチが職場に出向いて
・障碍のある人
・企業
の双方に必要な支援を行います。
職場定着支援(フォローアップ)
就職したあとも当事者が職場に定着できているかモニタリングし、必要なら支援をする必要があります。
・問題予防型支援
・問題解決型支援
の2つがあります。
(就労移行支援事務所の方がオフレコでおっしゃっていたのですが、障害者の職場定着は身体と知的の方は定着率が高くて、精神と発達の人は実はものすごく定着率が低いです。精神障害と発達障害の人はだいたい1/3の人が3ヶ月以内にやめます。今後支援者の特に就労支援の関係者の関心は定着支援に目が向いていて、どうやって定着率を上げていくのか、が課題となっています)
「職業相談シート」が大事
本書の2部を拝見していると、何度も「職業相談シート」という言葉が出てきていて、発達障害の人に対するアセスメントとして、この「職業相談シート」の作成が一番のポイントがあることがわかります。「職業相談シート」の作成によって問題点を「見える化」することが、当事者及び支援者両方ともに有益であることがわかります。